第1章 尊厳死という選択
壁が透明になっている特別な手術室に入り、私の体から今までつなげられていた管などが外されて少し苦しくなる。
そしてケホッ、とむせた瞬間壁をどんどん叩く音が聞こえた。
「…ない、で!…サラァ!」
「ね、ちゃんっ!やだぁぁ!」
誠人と母さんが泣いて私を必死に引き止めている。父さんが涙こらえてこちらを見据えていた。
「先生、さっき頼んだのお願いします。もう耐えられません…」
私は壁から目をそらして先生に頼むと、彼は私の口に医療用テープを巻いてくれた。
これでもう大丈夫。この気持ちをうっかり吐き出してしまう心配はない。
「サラさん、今までお疲れ様でした」
先生がそう言って私に麻酔を打ち始めた。
もう気持ちを正直に言ってしまおうか…。
家族で旅行に行きたい
友達と遊びたい
誠人と喧嘩したい
父さんに怒られたい
母さんに慰められたい
看護師になりたい
アメリカへ行きたい
イタリアン料理食べてみたい
まだ生きてたい
生きてたい
生きてたい生きてたい
生きてたい生きてたい生きてたい
生きてたい生きてたい生きてたい生きてたい
生きてたい生きてたい生きてたい生きてたい生きてたい生きてたい生きてたい生きてたい生きてたい生きてたい生きてたい生きてたい
死にたくない
死にたくない死にたくない
死にたくない死にたくない死にたくない
死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくなっ…ぃぃ、ま、だぁ、生き、て…ぃ。。。
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「午後17時48分…ご愁傷様でした」
医師に死亡確認された楠木サラは口角を上げて、涙を流していた。
安らかに眠ったから笑顔なのか、苦しくて引きっつっただけなのか。
嬉し涙なのか、悲しい時に流す涙なのか。
それを知るのは楠木サラで、その真実は語られることはない。
それが人の死であり、永遠の別れだ。
近未来、もしかしたら【尊厳死】が認められるかもしれない。
その選択が救うものの数も、苦しめるものの数もまだ分からない。だが1つだけ言える。
死ぬのに恐怖があるのは、まだこの世でやらなければならないものがあるということです。
どうか悔いのないように、恥じぬように生きてください。