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尊厳死というものは…【短編】

第1章 尊厳死という選択


ー寿命残り0日ー


いよいよやってきた当日、私は眠るように死ねるようだ。


「それでは今日の午後17時48分にお伺いします。どうか…悔いのないように」


この時間は私が生まれた時間なのだ。


「あ、先生。1つお願いがあるんです。……………………」

「…分かりました。そのようにします」


私はこっそり医師にお願い事をしておいた。



「サラ、今日はいい天気よ」


そう言って医師と入れ違いに病室へ入ってきた母の手にはタッパーがあった。

中身は黄色くてホワホワの美味しい卵焼き。


「母さん、卵焼きありがとう」


私が卵焼きを食べている間に父さんと誠人もやってきた。


現在時刻は既に12時を過ぎてる。

17時30分にはここを出なければならないのでタイムリミットは残り5時間ほどだ。


これほど短く感じた時間の流れは人生初だ。
後にも、先にも。


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「さてと!そろそろ行きますかっ!」


散歩に行こう、なんていう感じと同じように私はベッドから体を起こした。


本当は怖いし辛い。みんなの笑顔が2度と見れない。美味しい卵焼きも食べれない。

でもみんなには幸せになってほしいのだ。


「さ、さら…いかっ「母さんっ!」


私に向かって細く震えている手を出してきた母さんを父さんが止めた。

その言葉の先は知ってる、「いかないで」だよね。


「母さん、行って来ます…じゃないか。行きますね。今までありがとうございました」


私は母さんの体を力一杯抱きしめた。


「父さん、母さんをよろしく。喧嘩したらダメだからね?短い間、お世話になりました」


私は父さんの体を力一杯抱きしめた。


「誠人、良いお姉ちゃんじゃなくでごめん。親孝行するんだよ?私の弟でいてくれてありがとう」


私は誠人の体を力一杯抱きしめた。


そうして私は病室を後にした。



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「サラさん、ここで言葉を交わせるのは最後になります。伝えたいことは?」


手術室の手前で私は家族みんなに向き合った。


「今まで…本当に、ありがとうございました」


途中泣きそうになったが必死にこらえて最高の笑顔で私は言った。




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