第1章 尊厳死という選択
【楠木 サラ の場合】
「もういいよ…私にそんな大金使わないで」
私は泣き崩れる母に向かってそう言った。
2026年、尊厳死、安楽死が法制化した時代。
私は不治の病に侵されていて5年前から寝たきりの生活をしている。
年々、細くなる体。余命は残り4年にまで迫っていた。
「どうせあと4年で死ぬ人にそんな大金使わないで、弟に使ってよ。そうしたら大学進学できるでしょ?」
「い、嫌よっ!あなたが死ぬなんて…「母さんっ…強くなって。私なんかいてもいなくても一緒だよ。…私ももう辛いわ」
そう、これは本心で私の意思だ。
昨日の弟の言葉に影響は受けてない、私は自分にそう言い聞かせた。
〜昨日〜
「じゃあちょっと母さん、お花の水取り替えるわね」
そう言って母さんは出て行った。病室に弟と2人っきりになる。
弟とはあまり仲が良くない。これでも昔は仲が良かったんだけど…
「誠人(まさと)、元気ないみたいだね」
私が名前を呼ぶと面倒臭そうに教科書から顔を上げた。
「別に、なんでもない」
そう言ってため息をつきながら、昔ながらのくせである頭を掻く仕草をしていた。
「どうしたの…?お姉ちゃんに言ってみな?」
多分、私はなにもできないぶん、迷惑かけてるぶんこういうところではお姉さんぶりたかった。それだけだった。
私は繰り返し「どうしたの?」と聞く。
すると急に椅子をひっくり返しながら立ち上がる。
「うるせぇんだよっ!お前のせいで大学行けなくなったんだ!この泥棒っ!とっとと死ねよっ!!こんな時だけ姉ちゃんぶるなよっ」
そう言って彼は飛び出て行った。
知らなかった、彼がそう思ってたなんて。
誠人は頭が良くて大学も良いところに行けるという話を母さんから聞いていた。
頑張って勉強してたのに…私のせいで…。
そう思うと涙が出てきた。私が泣いてはいけないのに。
「まさ、と…ごめっ…うぅ…ゔっ、あぁ」
すると急に発作が起きて痙攣してしまった。
あぁ、このまま死ねればいいのに____。