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ただ一つの心を君に捧げる

第4章 褐色の奴隷(過去)


◯女主人(昔)◯

私の家は大きくないけれど貴族の家柄だった。領地には何時もお金がなくて、そこいらの商人より貧乏だったのでは無いかと思う。
私の父と母は人が良くて、騙されても笑って「きっと困っていたのよ」と許してしまうような人柄だった。だから何時までも小さな領地は貧乏だった。でも領地の人達は良い人達ばかりで、贅沢は出来ないけれど皆が明るく暮らしていた。

そんな両親の元に産まれた私はマリアと名付けられて、病弱だけれど優しい兄と共にのびのびと育てられた。



「マリア様は本当に可愛らしい。大人になられれば、さぞお美しくなられることだろう」

幼い頃から可愛い可愛いとお兄様や色んな人達から言われていたけれど、社交界のデビューが近付いて来るとより頻繁に言われる様になった。

まだ社交界にも出ていないのに、噂を聞き付けて私を嫁に欲しいと沢山の姿描きが送られて来た。そんな私に、まだマリアは幼いのにと困りながらもお父様は誰が良いか問いかけた。

「嫌よ。私は、王子様と結婚するんだもん」

幼い私はお母様に読んでもらった王子様とお姫様の物語に憧れていて、そんな事を言っていた。



ある日の事だ。
お屋敷の中庭でお花を摘んでいると、お兄様が珍しく駆けてきた。

「マリア!」

メイドと私の側まで駆けてきたお兄様が咳き込んで必死で息を整えている。メイドのリリーが慌ててお兄様の背中を擦った。

「凄いよ!お前に本当に王子様から婚約の申し込みが来たぞ!」

お兄様から聞いた国の名前は隣国のものだった。その国は多種族が集まって出来た国で、排他意識の強い私の国では余り良い印象を持たれていない。
でも、お父様もお母様も肌や髪の色で人を差別などしたこと無かったし、婚約の申し入れをした王子も私と年頃が近く聡明で人柄も良いとの事で私が望めば反対はしないと言ってくれた。

私は直ぐに送られてきた王子様の姿描きを開いた。

そこには私より少し年上なのだろう、まだ幼さの残る少年の姿が描かれていた。でもきりりと上がった眉に聡明そうな瞳。薄い唇は優しく緩い笑みを称えていた。
今は格好良いと言うよりは可愛らしいその姿も、大人になれば女性が騒ぎだしそうな凛々しい姿に成長することが容易に想像できて、私は胸をときめかせた。


思えば、そこから私の運命は狂いだしたのかもしれない。
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