第48章 夢幻
『飛鳥?』
えっ…
この…声…
ゆっくり振り向く
「…大和」
声も…顔も…間違いなく大和…
「大和…なの?」
無意識に男の頬を触る
『あぁ…』
名前を呼ばれた…
大和にもう一度名前を呼んでもらった…
「っ…、ふっ…やま…と!」
思わず飛びつく飛鳥をそっと抱きしめる。
優しく頭を撫でられて、その触り方さえ大和そのもの。
大和の胸の中でその腕に抱かれ、涙が枯れるまで泣く。
落ち着き出すと
『ほら…邪魔になっちゃうから…こっち』
そう言って大和に手を引かれ路地に連れて行かれる。
路地裏の入り組んだ先にある小さな民家。
そこに入るとまたやさしく抱きしめられる。
『逢いたかった…飛鳥。』
腕の力が込められ、飛鳥もそれに答えるようにしがみ付く。
「私だって…私だって逢いたかったよ…でも、どうして此処に…?だって…大和は…」
そう言いかけて唇を塞がれる。
優しい口付け…
『今は飛鳥に逢えたこと…それだけで幸せだ…』
飛鳥は頷きまた大和に抱きつく。
『飛鳥…色々聞きたい事があるんだ…座って?』
囲炉裏の側に座り気持ちを落ち着かせる。
「あのね…近くに雷が落ちて、気づいたら本能寺に居たの
…」
此処にきた経緯。
安土の皆んなにお世話になってて、大切にしてもらっている事。
昨日大和を見かけて、探しにきた事。
一生懸命に話した。
『そうだったんだね…じゃぁ飛鳥は今城の中で生活してるんだね?危ない目には合ってない?』
「うん…信長様も皆んなも守ってくれてるし大丈夫だよ」
『そうか…信長…様が…』
夢でも見ているんじゃないかと思いながら大和を見つめる。
「大和…?どうして大和はここに…?」
しばらくの沈黙の後
『記憶が…抜けてるんだ…気付いた時には今の恩人に助けられてな。商売の手伝いで此処に来た。』
その言葉にショックを隠せない…
「じゃぁ私との記憶は⁈記念日に出かけたり、結婚しようって約束したのは⁈忘れちゃった…?」
まくし立てるように大和に言うと、また抱きしめてくれて
『全部は思い出せない…だけど、飛鳥を大切にしてた事や、一緒に居たいと思ってた事は忘れてないよ…』
私の事は忘れずに居てくれた…
それだけで十分だった…