第42章 夜も日も明けない〜家康〜
翌日、家康が城に向かっているとも知らず、凛は飛鳥の様子を見に部屋に入る。
飛鳥は昨日より短くハッハッと辛うじて息をしている様だった。
唇は青く、体温も低い。
『飛鳥様』
顔を見る。
脳裏に自分に微笑みかけてくれた笑顔が浮かぶ。
このまま放っておけば…
そう思う一方、今ならまだ助かるかも…とも思ってしまう。
しかし…自分が生きるため…
完全に良心が無くなったわけではない凛は、飛鳥をせめて褥の上で息絶えさせなくては…と思った。
凛は無意識に声を張り上げた。
『誰か…誰か!誰かおらぬか!誰か!』
その声を聞きつけた秀吉が、凛の慌てた声のする方へ行くと、そこは飛鳥の部屋。
『どうした⁈』
襖を開けて見たものは
必死に声をかける凛と、既に息絶えてるかの様にグッタリしている飛鳥の姿。
駆け寄り飛鳥を抱き上げ褥に寝かせる。
脈は確認できたが虫の息だ。
『凛!薬師を!』
急いで部屋を出て人気の無い場所で息をつく。
(褥に寝かせられた…飛鳥様ごめんなさい。私も幸せになりたいの…)
先程とは違いゆっくりした足で薬師の元に向かった。
凛が部屋から出た後、秀吉の元に光秀の忍の姿。
『何…凛が…間者だと?』
忍から情報を聞き全てを知った秀吉。
急ぎ家臣を飛鳥の部屋に忍ばせ、飛鳥に呼びかけながら凛が戻るのを待つ。
しばらくすると凛が薬師を連れて戻る。
『秀吉様!薬師を連れて…』
言い切る前に家臣に捕らえられる凛。
『凛…貴様…』
秀吉の声からは怒りが溢れている。
その中に悲しみも。
捕らえられた凛はフーッと息を吐き、事態を把握した。
秀吉の目をしっかり見て
『秀吉様。申し訳ありませんでした。大名の命により忍び込んでおりました。飛鳥様は家康様の薬部屋から劇薬を…』
秀吉は絞り出すような声で
『凛を地下牢へ…』
呟く事しか出来なかった。
薬師が飛鳥を診察するが、その症状で薬師が今できる解毒は限られてると告げる。
だが、家康の薬部屋ならば解毒薬も作れるのでは無いかと…
できる限りの方法を薬師に頼み飛鳥を任せる。
飛鳥の部屋を出ると地下牢へ向かった。