第40章 感謝の気持ち
「よし!やるぞ!」
枝を小刀で適当な大きさに切り短冊のような形にしていく。
ヤスリを掛けて表面を滑らかにする。
それを6枚作る。
その一つ一つを【信・秀・家・政・三・光・】と小さく掘っていく
「痛っ…」
何度も指を切り、その度に小さな布を裂いて巻きつけ、木に血がつかないようにする。
全てに武将の頭文字か掘り終えると、今度は裏に小さく飛鳥の頭文字
没頭しながら作業を進めていると
『飛鳥?』
その声にハッとしてつい大声が出てしまう
『開けちゃダメ!』
急いで部屋の外に出る
「どうしたの?家康」
慌てる飛鳥に
『夕餉の時間すっかり過ぎてるのにあんた来てないって聞いたから』
集中して作業していたらあたりは暗くなって来ていた。
「そっか。もぅそんな時間なんだね!」
薄っすら額に汗が滲みそれを手で拭こうとすると、腕を取られる
『あんた!なにこれ!何でこんなに怪我してるの⁈』
木に血がつかないようにと切れるたびに巻いた布だが、どれ程巻かれているかなんて気にもしてなかった。
「あぁ…えーっと…」
(今バレたら水の泡だよ!でもなんて言い訳しよう…)
考えに考え抜いてでた言葉
「なんでだろう」
結局良い言い訳も思いつかずそう言うしかなかった
『ちょっと来て』
家康に手を引かれ薬部屋まで連れて来られる
薬を塗らずただ巻きつけただけの布は、血が固まりくっついて取れない
『はぁ…本当、手が焼ける…少し痛いけど我慢して』
ぬるま湯を桶に入れて戻ってくる家康
そこに布が貼り付いた指を入れる
「いっ!た…い」
思わず顔を歪めると、湯の中でそっと布を取る家康が
『もし次切ったらこれ塗って。その後これ巻いて』
布が取れた指に傷薬を塗って布を巻いてくれる
「ありがとう…傷薬のお世話になります…」
『なるべく塗らないようにして欲しいんだけど』
ごもっともな事を言われ恐縮するしかなかった。
手当てをしてもらい夕餉を食べて、また部屋に戻り作業の続きをする。
木を掘る作業を全て終わらせると日付が変わる頃になっていた。
丁寧に風呂敷にしまい込みホッと一息つく
(あぁ…湯浴み忘れてた…)
着替えを持って廊下に出ると女中さんに湯浴みをしたい事を伝えてから、ゆっくり湯殿に向かう。