第30章 最愛の人〜秀吉〜
飛鳥に逢いたい…
焦る気持ちを抑え御殿に戻る
『飛鳥…飛鳥』
無意識に飛鳥の名前を呼ぶ
自室の襖を開けると、愛しい人の小さな後ろ姿
『飛鳥…』
堪らず背後から抱き締める
自然と腕に力が入り、飛鳥の香りを吸い込む。
飛鳥がいる事を目と手と匂いで確認する
「秀吉さん…」
飛鳥の声が掠れている
飛鳥を振り向かせて顔を見と、涙に濡れた頬…目は赤く充血している…
『泣いていたのか?』
頬に触れようとすると、その手を飛鳥の両手の中に閉じ込められる。
『飛鳥…どうした?』
飛鳥が秀吉を見上げる
「聞きたいことがあります…」
いつになく凛とした声
「さっき…月華さんと居たよね?」
月華の名前が出て正直驚いた。
「秀吉さんは、月華さんと会ってから何処かおかしかった。ずっと…考え事をしてるみたいだし、それに、月華さんが秀吉さんを見る目も違かった。私…知っちゃったの。秀吉さんと月華さんの事。私だってそこまで馬鹿じゃない…もう会えないって想ってた人が生きていたら嬉しい…だから秀吉さんの気持ちを尊重したいの。」
飛鳥…
声をかけようとして、それを制止される
「最後まで聞いて…?」
「想いあってたのに…一緒になれなかった人ですよね?…それなら、月華さんと一緒になってください。私は500年後から来た身だし。いつ未来に飛ばされるかなんてわかりません。月華さんと離れて後悔したのなら…もう、手放しちゃいけない…そう思うんです。やっと再会できたんだから…」
飛鳥は泣き声になっても決して涙を見せなかった。
何とか決心して伝えて来た言葉…
『飛鳥は…それでいいのか?』
ハッとして顔を上げる飛鳥
『飛鳥は俺が月華の元に行っても…いいのか?』
見つめたまま飛鳥が言葉を探っているのがわかる…
『確かに…月華を昔想ったときもあったのは事実だ。再会して生きていた事に驚いて、嬉しいと思ったのも事実だ…。』
決して飛鳥から目を逸らさない。
飛鳥もまた秀吉を見つめる
『でも飛鳥…俺はあの時後悔したから…だから、もう後悔はしたくない…』