第30章 最愛の人〜秀吉〜
『秀吉…なにしてる…』
地を這うような低い声が聞こえた
『何をしていると聞いているんだよ…』
政宗は刀に手をかけて秀吉を睨む
今の月華と秀吉は、周りから見たら抱き合うかの様…
『政宗』
『飛鳥を…飛鳥の事を蔑ろにしたのか…?飛鳥を泣かせる気なのか?』
月華を離し政宗に向き直る
『蔑ろになどしていない。俺が泣かせる訳ないだろう…』
『じゃぁ…その女はなんだよ』
なおも睨み声を荒げている
『月華は…』
何処から説明すれはいい…
政宗にどう伝えればいい…
思わず押し黙る
『なにも…なにも言わねぇーのかよ…わかった。飛鳥は俺が貰う。お前の側には置けねぇ…』
『政宗!』
呼び止めようとすると月華が着物の袖を掴む。
政宗は暗闇に消えてしまう…
『秀吉様…?飛鳥様とは…』
秀吉は月華に向き直り、そしてはっきりとした声で、それでいて優しく、諭す様に告げる
『月華…お前の気持ちには答えられない…』
『っ…何故ですか…?あの夜をお忘れなのですか…?あの時秀吉様も…私を想ってくれていたのではないですか⁈』
涙を溜めて声を荒げる月華
『あの夜の事は忘れてなどない…月華が落ちたと聞き、引き止めれば良かったと、何度も何度も後悔した…だから…もう後悔はしたくはない。この手を離したくはない…』
『私では…ダメなのですか…?月華はもう…秀吉様のお側を離れたりは致しません…』
秀吉は首を横に振る
『あいつを…飛鳥を手放したくないんだ…』
『飛鳥様を…?でも!飛鳥様は信長様の寵姫!』
必死にしがみつく…
『あぁ…だけど俺の最愛の人だ』
月華がその場に崩れ落ちる
そっと肩に手を置き
『ごめんな…』
そう言ってその場を離れる
月華の泣く声がしたが秀吉は決して振り返る事はなかった…