第30章 最愛の人〜秀吉〜
政宗と戻る頃には空は薄暗くなっていた。
御殿の入り口にはキョロキョロしながらあたりを見ている秀吉。
飛鳥を見つけると駆けよって
『飛鳥!こんな遅くまで…』
そう言って飛鳥の後ろにいる政宗を見つける
『政宗…お前も一緒だったのか?ならこんな遅くまで…』
小言を言い出す秀吉に飛鳥を押し付ける。
秀吉の腕の中にすっぽりはまる飛鳥にそっと頭を撫でながら微笑む
『ほら…大丈夫だ…安心しろよ?』
「政宗…」
政宗は秀吉の横を通り過ぎながら呟く
『…飛鳥をちゃんと掴んでおかねぇーと…奪うぞ…』
『…渡さねぇーよ』
とは言ったものの、いつもの冗談めかした政宗とは違っていた。
「秀吉さん?」
見つめる飛鳥の頭を撫で
『遅くなると心配するだろ?』
優しく伝えて御殿の中に戻った。
夕餉を食べ、湯浴みを済ませると飛鳥が待つ部屋に戻る
飛鳥は縁側に座り空を見上げていた
『飛鳥…風邪引くぞ?』
肩に羽織をかけと
「ありがとう…」
空を見つめたままの飛鳥は何処か儚くて今にも消え入りそうに見える。
思わず抱きしめる…
「秀吉…さん?どうしたの?」
そっと見上げてきた目も虚ろに見えて急に不安が湧き上がった
『飛鳥…お前が今にも消えそうで…』
昔…こんな目で見つめられた事がある…
だがその手を手放した…
月華…
愛する人をもうこんな目にさせたくない。
月華の時のように…
ただ優しくするだけではダメだ…
この世にもういないと思った時の…
あの時の後悔を忘れてはいない。
「秀吉さん…私はどこにもいかないよ?」
そう言われたものの、政宗に言われた言葉も気になる…
【奪うぞ…】
真剣な声だった…
奪われるわけにはいかない…
愛する人をもう手放したりしない…
その日秀吉は腕の中に飛鳥を閉じ込め絶対に離すまいと誓い眠りについた…