第30章 最愛の人〜秀吉〜
御殿に帰り飛鳥が湯殿に立つと、一人になった部屋の中で昼間の事を思い出す。
月華がいた…
月華が…生きていた…
どれだけ昔だっただろう…
確かお屋形様に仕えてしばらく経った頃だった。
戦の為に立ち寄った小さな町に月華はいた。
キレイな顔だち故に周りにはいつも男達がいて、俺は遠巻きにそれを見ていた。
ある時月華が男達に絡まれていて、それをたまたま助けたのがキッカケで話すようになった。
聞けば大名に見染められ、側室として嫁ぐことになったらしい
だが、好いても無い男の所に嫁ぐのは嫌だと…
せめて嫁ぐ迄は楽しく過ごしたいと…
そう言われ滞在している間月華と過ごした。
その頃は今以上に戦が多く、いつ自分の命が散ってもおかしくない
お屋形様の大望の為なら、自分の命はいつ散っても良いと思っていた
だから愛する者は作らない
自分が居なくなった後に悲しむのがわかるから…
だから…月華が俺を慕っていたのはわかっていた。
毎日過ごすうち情が湧かなかったわけではない。
月華も嫁ぐ身…心を交わすことなどしてはいけない。
自分の気持ちを押さえ、そう思いながら過ごしていた。
穏やかに過ごしていたが、とうとう月華の嫁ぐ前日になってしまった。
いつもの様に他愛もないをして別れる時…
『秀吉様…お慕い申しておりました…どうか…今日だけはこのまま…』
そう言われ…その日、月華を抱いた。
決して愛を囁くことはせず…
だがお互い離れるのを惜しんで、何度も…何度も…
月華が嫁いですぐ進軍をする為町を後にした。
風の噂で月華が嫁いだ大名が落とされたと聞いた。
俺はあの時絶望したんだ。
きっと月華は生きていない…と、そう思っていたのに…