第24章 愛惜の憂苦 〜信長〜
わかっていた。
わかっていたけど、弱っていく飛鳥を放っておく事なんて出来なかった。
それ程までに飛鳥を想っていた。
「秀吉…さん…」
飛鳥を抱き締める。
腕の中に閉じ込めた飛鳥は声を殺して泣いている…
何故泣いているのか。
誰を想って泣いているのか。
秀吉は決して聞かなかった。
どうしてそんなに優しくするの…
どうしてそんな言葉をかけてくれるの…
どうして貴方は側にいれくれないの…
どうして私を一人にするの…
秀吉の腕の中は暖かい。
優しい。
だから涙が止まらない。
貴方に側にいて欲しい…
貴方の口から優しい言葉が聞きたい…
わかっていた。
秀吉の優しさに甘えていた。
貴方がいない寂しさから逃げていただけ。
秀吉の腕の中で…その暖かさに包まれて…
私は側にいない貴方の事を考える…
酷い女…
「秀吉さん…」
何とか泣き止み顔を上げる
「秀吉さん…ごめんなさい…」
また涙が溢れる
「私…私…」
そう言いかけた飛鳥に秀吉は触れるだけの口付けを落とす
『これで…許してやる。だからもう迷うなよ』
秀吉は飛鳥を抱きしめる
言わなくてもわかる。
見つめてきた目は、迷いのない目。
やはり、御屋形様には敵わない。
だから一度だけ触れるだけの口付けをする。
(これくらいは…これくらいは許してください…御屋形様…)
飛鳥を見ると優しく微笑んでいる
その頭をそっと撫でる
(俺は…この日ノ本で一番の兄になってやる…兄として飛鳥…お前を守るからな…)
夜になり静まり返った部屋で風呂敷から縫い掛けの反物を出す
真っ白いそれは、秀吉と城下に出かけた時に買ったもの。
信長の為にと、作りかけていた羽織。
(帰ってくるまでに、作り終えたいな…)
信長の事を想い…
信長の無事を祈り…
縫上げていく。
あの後秀吉はいつも通りに接してくれた。
それが何よりも嬉しかった。
自分からは聞けなかった戦の事も、飛鳥にわかりやすく説明してくれた。
皆んな怪我もない。
ただ少し別件があり、帰りが遅くなるだけ。
だから心配ない。
それを聞いても心配は心配だ。
でも信長の
『案ずるでない』
その言葉を信じた。