第24章 愛惜の憂苦 〜信長〜
夜が明けきらないうちに出立する。
わざわざ信長が出るほどでもないが、信長が行けば士気も上がる。
戦も早く終わる
家康、三成、政宗を引き連れ安土を立つ
『秀吉、任せたぞ』
『はっ』
短く挨拶を交わし、飛鳥が眠る天守を見上げる
(戦前に言葉を交わせなかったな…飛鳥待っておれよ)
キリッとした表情になり前を見据える
『行くぞ』
その声と共に馬が走り出す
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……温かい手…
そうやって撫でられると安心するな…
見つめる先には…秀吉さん?
抱き締められて胸に顔を埋める
秀吉さん…
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「秀吉…さん…」
その声に思わず言葉を無くす
天守で寝込んでいる飛鳥を心配し、枕元に座る秀吉。
寝言で呼ばれた自分の名前
『飛鳥…』
そっと頭を撫でる
薄っすらと微笑む飛鳥は眠ったままだ
(寝言で俺を呼ぶのか…?御屋形様じゃなくて…俺を…
あまり期待させるな…)
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……あれ?…
どこ行くの?
秀吉さん?
ん?違う…
信長様だ…
信長様…待って…
行かないで…
いや…
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「いやっ…」
目が醒める。
視界がクルクル回る…
夢を見ていた気がする…
でも内容は思い出せない。
だけど凄く暖かくて…それでいて、凄く悲しかった。
『飛鳥…』
そこには信長ではなく秀吉
「秀吉さん?あのっ…なんで…」
起き上がろうとすると、それを制されてる
『飛鳥…お前熱が出てて、眠っていたんだよ…』
(あぁ…熱が…)
火鉢の前で、寒気と身体のだるさに耐えていた記憶だけはある
『熱は…落ち着いたみたいだな』
飛鳥のおでこに手を置いて熱がない事を確かめる
「そうだったんだ…なんかごめんなさい。また迷惑かけちゃったね」
切なそうに微笑む飛鳥を抱き締めたい衝動に駆られるが、どうにか自制する。
『迷惑なんかじゃないだろ?でもちゃんと体調が悪かったら言えよ?』
優しく飛鳥に諭す
「うん…あっ…信長様は?」
飛鳥は信長が戦に行った事を知らない。
体調が悪い今、不安を増やしてさらに悪化させたくはない。
だが言わないわけにはいかない…