第5章 崩壊
Nside
どうやって家に帰ったのか、わからない。
バックもそこらへんに投げ捨てて、服も着替えずにただボンヤリとリビングの入り口に突っ立っていた。
『すき。』
…大野さんの言葉が、ずっとずっと。
頭の中を反芻する。
だけど頭に思い浮かぶのは、キズついた大野さんの顔。
『あなたのことなんて、好きじゃない。』
ウソ。
『早く諦めてください。』
イヤだ。
俺以外のヒトなんて、見ないで。
いやだ
いやだ
いやだ
足が震えて、肩も震えて、目が熱くなる。
「すき
……おれも、すき…っ」
すき。
すき。
すき。
すきなんだよ、おおのさん。
「ふっ…う…っ」
冷たいフローリングの上に崩れ落ちた。
でも…っ
でもおれ…っ!
熱い涙が溢れ出して、床にポタポタと落ちていく。
その時。
”翔ちゃん”
画面に表示された文字。
ブルブルと震え出した携帯の振動が伝わる。
…今は誰とも話したくない。
ボロボロと落ちて、弾ける涙をただただ眺め続けていると、しつこく鳴り続けていた携帯が止まった。
そしてそのあとすぐ、軽快な音と共に画面に表れた文字。
「……え?」
『今下にいます。』
慌ててインターフォンを覗きに行こうと立ち上がった時、来客を告げるチャイムが鳴った。