第2章 寮生活ひと月め☆
「おやァ。今まであんまり寮に戻ってこなかった不良少年が、こんなところでマザコンごっことはお笑いぐさでさァ」
「マザコンごっこ?馬鹿な俺にはまったく理解できないね、どんな遊びなんだい?説明してくれよ☆」
おっとなんか空気がおかしくなって参りましたよ、どうしよう。私はブリ大根を作っていればいいのでしょうか?
お玉を握る手が震えてしまう。なんとか震えているのをけどられないように一心不乱にかき混ぜる。
「はいはい、そこまでそこまで~撤収~~」
タイミングよく銀さんが入ってきて、二人を外に追い出してくれた。
「邪魔をされたあらぶる寮母さんに、ブリ大根をぼろぼろにされたくなかったら、さっさと出て行くこった」
例の二人は、表面上穏やかながら、何か言い合いながらアパートの階段を下りていった。
「まったく、若さかねぇあの血の気の多さは」
そう言って、銀さんはキッチンの椅子に腰をかけた。
「…あ、ありがとぅ!」
なんか照れくさくなってしまって、鍋をかきまぜたままお礼を言ったら、なんだかぶっきらぼうになってしまった。
銀さんの前だと、こんなんばっかだよ!
なんなんだ、自分!と思っていた、その瞬間、
ぎゅっと後ろから力強く抱きしめられた。
「なんかさ、そういうのって、俺、結構…たまんないかも」
抱きしめられるってこんなに、力強いものなんだ…と冷静な部分もありながら、驚きとか動悸とかで、息を吸うことすらできなかった。
その日のブリ大根はぐちゃぐちゃで、少し焦げ臭かった。