第3章 人生は思い通りには動かない
江戸の代表的な喧騒街、かぶき町。
まだ夕刻に差し掛かった頃だと言うのに、かぶき町からは賑やかな声が所々から聞こえてくる。
楽しげな声と裏腹、なんでも受け入れるこの街に生きる人々は、何かとワケありな人間ばかりだ。
そんな町の一角に、なんとも風変わりな店がある。
スナックお登勢と書かれた看板の店の上を見上げると、そこには"万事屋銀ちゃん"の文字。
そしてその店の前に佇む人間が2人。
「さぁ、着いたぞ。神恵殿。」
桂は暫く無言だった神恵に声をかける。ちらりと神恵の方を見ると、唇を噛み心配そうな目で店を見上げる神恵の姿があった。
『……私、やっぱり会わない方がいいのかもしれません。』
出てきた言葉は思いがけない言葉だった。震える声で、何とか笑顔を保とうとしていたが、隠しきれない悲しみで曇っている。
『神楽が元気なら…会わなくても、いいのかなと…。ダメですよねほんと…。こういう時弱気になっちゃうんです私。でも、神楽はもう私のことは許してくれないかも知れないから…会うだけ迷惑かもしれません…。』
柄にもなく弱気な言葉を零した神恵。道中、ずっと何も話さず緊張した面持ちで街を歩いていた時から、ずっと考えていたのはそんな事だった。
事情も何も知らない桂だが、アキバではあんなに強気にエイリアンと戦い、楽しげに話していた神恵の変わりようを見て、何か察する所があった様だった。
「俺は神恵殿とリーダーに何があったのかは知らんが、俺の知っているリーダーは、女子であの幼さなのにも関わらずたくましく、男気のある侍の1人と認めている。そんなリーダーが、昔のことでクヨクヨとしているとは思えんがな。」
表情は変えず、真っ直ぐな面持ちで神恵に語りかける桂。
「仮にもしそうだったとしても、家族に会いたいという神恵殿の素直な気持ちを無下にするような人間ではないさ。それは俺が保証しよう。」
少しだけ口角を上げ、もう一度神恵に向き直る桂。暫く俯いていた神恵も、桂の言葉を聞き、ほんの少し覚悟を決めたように、改めて万事屋の看板を見上げた。