第2章 会いに行くから、お姉ちゃん。
瑠樺side
神恵さんは今朝方かなり早い時間に船を後にした。初日のように携帯や財布を置いていっていないか心配だったため、部屋を見に行ったが、どうやらしっかり持って行ったようだった。
昨日、「朝一で神楽に会いに行く!!!」と騒いでいたが、それと同時に不安げな顔を浮かべていた。
前に聞いた話だと、妹さんとは半ば家出のような形で別れてしまったらしくどれだけ謝っても償いきれないと言っていた。色々事情があるようだが、仕事の合間に神恵さんはいつも楽しそうにご家族の話をしていた。
早くに家族を無くした私からすれば、離れ離れであっても愛している家族がいることも、神恵さんにそれだけ愛されている家族も羨ましくて仕方がなかった。
だからこそ見てみたかった。それだけ愛されてる妹さんがどんな子なのか。
正直に言うなら、不安げな神恵さんに少しだけ安心していた部分もある。妹さんが笑顔で神恵さんを受け入れてしまったら、もう志節団には戻ってこないかもしれない。そうなったら、私はどうにかなってしまいそうだった。
逆に拒まれたら…。神恵さんの背中をさすることが出来るのは私だけだとも思っていたから。その様子を少しだけ伺って、もし上手くいっているならそのままお暇しようと思っていたのに。
「お前神恵の知り合いアルカ?神恵は…神恵はどこにいるネ…。地球に来てるアルカ…?」
強い眼差しで私の服の裾を掴むこの少女が妹さん…か。声は微かに震えていて、私を見つめる瞳の奥は揺れていた。久々に聞いた姉の名前に喜んでいるわけでも、まして怒ってるわけでもない。驚いて、寂しそうな、全ての感情がぐちゃぐちゃになった眼差しだった。
そのまま無視して走り去ろうかと思っていたのに、どうもこの目に勝てそうにない。年端も行かぬ少女になぜこんな表情が出来るのか。神恵さんはどれだけこの子に心配をかけたのか。一泡吹かせてやろうと思っていた私の心は、もはやふつふつと静かに怒ってすらいた。この子には、神恵さんの行方を、今を知る権利があるのにあの人はどこをほっつき歩いているのか。
私は静かに妹さんに向き合った。