第5章 どこですか?
『ごめんなさい、行けないや』
「プハハハ!だろうな、言ってみただけだ」
気にしないとでも言うように笑い飛ばすエースに、私は僅かながら哀しみを感じた。
エースに会えるのはこれが最後になるかもしれない。
その考えが私の頭を過ったからだ。
彼は仲間を裏切った"黒ひげ"を一人で追い続けている。そして私と別れた後も、また追い続けるのだろう。
「なァ、おれ達どこかで会ったことあるか?」
気付けばすぐ横にエースが座り、私の顔を覗き込むようにして見ていた。
あまりの近さに心臓が飛び出そうになる。
『…っえ、うん。あります、よ。一度だけ』
「だよなァ。でも、どこでだ?」
この兄弟、人との距離感が近いと言うか。心臓に悪いような…
「う~~ん。思い出せねェ」
『初めて会ったのは、エースがまだ小さい時だったから…忘れててもしょうがないですよ』
と言うと、エースはムッとした表情をして見せる。
何か気に触る事を言ってしまったようだ。私は慌てて言い直す。
『でも、また会えて良かったです!』
ピクリとエースの眉が上がる。
「そのセリフどこかで…」
『…?』
エースは眉間に皺を寄せたかと思うと、パッと目を見開く。
「レン…そうか、レン!」
『はい?』
「あの時の!ルフィを一緒に助けた…やつだよな」
自分の事を思い出してくれたことに、嬉しさと小恥ずかしさでレンは笑みを溢す。
『そうです。良く思い出しましたね~。もう忘れてしまったのかと』
「っ…悪かったな、忘れてて。レンが変わりすぎなんだよ!」
『えー…そんな変わってないと思うけど。どっちかと言うとエースの方が変わりすぎですよ。こんなに大きくなって』
カッコ良くなりすぎです。と心の中で呟く。
「で?今までどうしてたんだ?」
そう聞かれた私は、特に隠すこともなく小さきルフィ達と別れた後の事を話した。
話終えるとエースは"そうか"と言って立ち上がる。そしてレンの頭を撫で、一枚の毛布を寄越した。
「今日は疲れたろ。そろそろ、寝るか?」
ふあぁ…と欠伸が出る。
「じゃあ、おやすみ」
『おやすみなさい、また明日』
「あァ、また明日」
レンは深い眠りへと落ちていった。