第1章 帰って……きた?
ガラ、と屋敷の戸を開く。
なんとも大きく、綺麗な屋敷だ。
物珍しさにキョロキョロしている間に、いつの間にか屋敷の中へ導かれた。
奥まで長々と続く廊下が見える。
大き過ぎやしないだろうか……どこからか、忙しない足音が聞こえてきた。
「ちょっと!内番ほっぽってどこ行って……」
ドタドタと慌ただしい足音が私の前で静止する。
……蛍丸だ。
私は蛍丸と鶯丸をセットで畑仕事に出すことが多かったので、彼は鶯丸を迎えに来たのだろうか。
「え……あ、主……?」
手に持っていた手拭いをぎゅっと握り、蛍丸はしきりに私を見つめている。
鶯丸を迎えに来たのであろうに、彼に対しては一瞥もくれなかった。
「ほ、ほんとに主……?」
訝しげにスカートの裾をくいくい引っ張る彼は、思った通り可愛らしい。
「主だ。俺たちのな」
鶯丸が言う。
彼の目は私を捉えて、離さない。
またドタドタと足音を鳴らして、蛍丸が去っていく。
それでも構わず、鶯丸は私を見つめ続けていた。
「もう……忘れてしまったか?」
小さな声で、彼は私に問うた。
忘れた、何を?
正直何も理解できていない身としては、苦しい質問だった。
「何を忘れたのかも、分からないよ……」
申し訳ないけど、と付け足すとそうかと頷き、私に靴を脱ぐよう促す。
彼の眉が、どことなく悲しげに下がっていた。