第1章 帰って……きた?
審神者の仕事と言われてもいまいちピンと来なかったので困っていたのだが、前田くんが
「まずは本丸に慣れていただきましょう」
と提案してくれた。
昨日来たばかりにも関わらず、主としてしゃんとしなくてはと焦りを感じていた私にとって、彼の提案はとても有難いものだった。
彼らのことを表面的に知っていても、本質的なところは全く分からない。
確かに、彼の言い分はご最もだった。
「昨日寝泊まりされた部屋が、もちろんですが主君の自室になります。それとは別に、主君専用の部屋がもうひとつございます」
「そうなんだね。それはなんのお部屋?」
「書斎です。主君は、お仕事をなさるとき必ずそちらの部屋にいらっしゃいます」
丁寧な説明だが、どうにもムズムズする。
私が彼の主君のはずなのに、私は彼の中の“主君”を知らない。
やっぱり、私と似た人と間違えているのではないだろうか……なんて考えが頭を過ぎる。
書斎まで案内された私は、色んな意味で胸をバクバクさせながら障子に手を掛けた。
中は整理整頓されていて、埃ひとつ落ちていない。
きっと掃除をしてくれたのだろう。
誰が?
「ねえ、前田くん」
「はい。主君、なんでしょう?」
真っ直ぐに見上げてくる前田くんなら、私の疑問に答えてくれるのではないか。
「あなた達の言う主君は、本当に私?」
「…………え」
「私、皆のことは知ってるけど、皆が言う私のことは全然知らないの」
言うと、前田くんは床に視線を落としたまま黙ってしまった。