第1章 姫、木ノ葉におはす。
朝、花は清々しい気持ちで目覚めた。
布団で眠りたいと言ったとき、またまた忍たちには反対されてしまったが、火影が笑って了承してくれた。
初めて使う布団は、いつも寝ていたベッドよりも固かったけれど、懐かしいような、温かな匂いがした。
その日は、城にいた頃の重々しい着物ではなく、木ノ葉の里で臣下と選んだ身軽な服を纏っていた。
はしたない、という王の意向により半袖やノースリーブを着たことのなかった花は、その着やすさや、かさばらない様子に感動を覚えた。
初めてと言っても過言では無い陽の光も、心地よくてヤミツキになりそうだ。
「お目覚めでしょうか、姫様……」
花の国から着いてきた臣下が、部屋の扉の前にいるのを感じる。
「もう準備はできておるぞ」
元気いっぱいに扉を開けると、驚きながらも優しく微笑んだ臣下がそこにいた。
「アカデミーの前まで、送ってもらえるかのう。その後は、わらわがひとりで参る」
例のごとく拒否をされるかと思ったが、予想外にも臣下は頷いた。
臣下としては、彼女が元気いっぱいな様子が嬉しく、またそれに協力したいと思っていた。
花はその優しさを感じ、改めて礼を述べてから共にアカデミーへ向かった。
今日が入学式だということで、なんとも良いタイミングで来たものだと感心する。
門の前では親と手を繋いでやって来る子どもたちをちらほら見かけた。
けれど、ひとりでやって来ている者もいる。
花も例外では無かったが、その寂しそうな面持ちに自ずと心が痛むのを感じた。
臣下と別れ会場に入ると、あらかじめ用意されていた席に自由に座るような仕組みになっていた。
花は姫であるので用意があるかと思ったが、それが無かったので少し安心した。
きっと、普通の子どもとして扱って欲しいという花を想った、臣下の気遣いであろう。
(何から何まで、気の利くやつじゃ)
なんとなく手前の席に腰を下ろすと、前に座っている男子がふと振り向いた。
「よ!」
「……よ?」
よ!というのは男子にとっては挨拶なのだが、そのような挨拶を受けたことの無い花は、なんじゃそれは?と首をかしげた。