第1章 姫、木ノ葉におはす。
「木ノ葉の里は、あったかいのう!」
「それは春だからです……姫様」
「それに、ニンジャがわんさかおるぞ。ほっほっほ」
「それは、姫様を護衛していただいているので……」
花の国から、木ノ葉の里に小さな姫様がいらっしゃった。
花の国といえば、辿り着くのも困難とされる峻険な地にあることで有名だ。
その場所のせいか他国からの侵略を免れてきたため、兵を養成する事がないという平和な国だと聞いている。
それにしても、だ。
現在、俺、うみのイルカは頭を抱えている。
彼女がまるでマイペース、そして能天気が服を着て歩いているようなお方であるからだ。
姫はこの里をいたく気に入ったようで、それは誠に光栄ではあるのだが、あろうことかアカデミーに通いたいと仰っている。
それを聞いた護衛、そしてアカデミーで教師をしている者達は一斉に冷や汗をかいた。
もしアカデミーに通ったとして、アカデミーの生徒達は絶対に花の国を知らないので、彼女を姫だと知らず、認めず問題が起こるかもしれない。
だがしかし、姫のお願いを断ったとして、もし彼女の気を損ねたとしたなら……国同士の問題にまで発展してしまうかもしれない。
まあ彼女の性格を考えれば、そこまでには至らないかもしれないが。
ああ……3代目火影様も、お困りのご様子だ。
「構わぬ!この里におる限り、わらわはごくごくふっつぅう〜の女の子じゃ。姫でなく、ただの子どもじゃ。
そなたらも遠慮をせず、わらわを可愛がると良いぞ。
まあまあ!心配はいらぬ。父上にも許可はいただいておる。
ここにおる時くらいは、羽を伸ばしても良かろう。ほっほっほ」
姫様はそう仰って、ソファの上で自身の太ももをぺちぺちと陽気に叩き始めた。
その様子は本当にただの子どもであり、その扱いをねだっているようにも見えた。
それから、姫様と3代目火影様の譲らない緩やかな攻防戦は続いたが、姫様が花の国の王から賜ったという手紙を火影様に渡したことで、ついに決着がついた。
姫様は、明日からアカデミーに通うことになったのである。
姫様を受け持つことに不安を感じている教師達は誰も名乗りをあげない。
申し訳なさと焦りで、俺はとうとう彼女を受け持つと宣言した。
まあ、通うにしてもアカデミー。
アカデミーが終われば国に戻られる事だろう。
ここにいる間、何も起こらないといいのだが……。