第5章 平穏な、日々
side灰羽。
その日、姉と姉の友人の付き添いでスカイツリーに行った。
別に、女子の買い物に付き合うのは母親と姉で慣れてるし、どうせ予定もないから…
散々色んな場所を巡り、最後に水族館に入ることになった。
水族館…
文乃さんときたかったな。
そう思ったその時、
今1番聞きたかった声が
今1番聞きたくない名前を呼んだ。
「孝支。」
空耳なんかじゃない。
声がした出口の方を見れば、その人はいた。
俺の視線の先にいたのは
俺が欲しくて欲しくてたまらなくて、
でも捕まえられないひと。
その人の指にはキラキラ光る枷。
隣には、俺じゃないヒト。
俺じゃない人のためにおしゃれをして
俺じゃないやつの腕に自分の腕を絡めた
俺の1番好きな人。
苦しくて、悔しくて
あの人を見なかったふりをして、俺は逃げるように姉たちの後を追った。