第5章 平穏な、日々
「家から一緒だとつまんねーべ?だから俺、先に着替えて車で待ってる。
ちゃーんとおしゃれしてきてな?」
そう言って私を部屋から追い出した孝支。
…とりあえずシャワー浴びようか。
なんて冷めた言い方はしてるけれど、気持ちは上向き。
いつもより丁寧に体を洗い、お土産でもらった美容成分たっぷりのお高めのパックを使ってみる。
パック中に孝支は家を出たみたいなので、タオルのまま寝室へと向かい、収納の扉を開けた。
収納の引き出しの1番奥にある勝負下着を身につけると、洋服を見繕う。
春、セールで衝動買いしたけれど仕事では着れないと思っていた、胸元が大きく開いた、袖がレースになっている黒のブラウスを引っ張り出す。
少し甘めのテイストだけれど、デートだしいいか。
ボトムは秋らしく落ち着いた色…なんて考えたけれど、やっぱりデートだし…とボルドーのミディ丈フレアスカートを合わせた。
防寒対策として薄手の黒のストッキングを履き、ラインストーンのボタンのカーディガンを肩からかけた。
お化粧もいつもよりも念入りに。
アイメイクも仕事仕様のブラウン系でなく淡くピンクなんか入れてみたり。
リップはいつもより赤味を抑えて、いつもはつけないグロスも塗った。
お化粧道具と財布とスマホ。その他の必要なものをカバンに入れて準備OK。
カバンはダークブラウンの小さなショルダーバッグ。
就職祝いにと孝支と2人で送りあった時計を身に付け部屋を出ようとした時にふ、とあることを思い出し部屋に戻る。
ベッドの枕元の引き出しの中の小さなケース。
開ければ、シンプルな指輪が光る。
結婚式はまだしなくてもいい。
でも、孝支の奥さんだって印が欲しいの。
そう、ねだって買った指輪。
別に高くなくていい。
普段使いできるくらいシンプルなものがいい。
2人で探して納得のいくものを選んだ。
孝支はもう少し高いものでも…なんて言っていたけれど私は満足。
細身のシルバーにひと粒、誕生石が光る。
孝支は6月生まれだからムーンストーン。
私は5月生まれだから…エメラルド。
その指輪をいつもの指につけると、私は孝支の待つ地下の駐車場へと向かった。