第1章 はじまり
ばたばた音を立てて出て行った灰羽くんはばたばたしながら何かを持って帰ってきた。
「椎名さんっ!これ、着替えてください!
その方が少しはあったかいからっ!」
そう言って渡されたのは有名なスポーツブランドのジャージ。
他にもジャージが入っていた袋にはTシャツが数枚入っていた。
確かに着替えられるのはありがたい。
でも…
「灰羽くんは…?着替えないの?」
そう聞けば、灰羽くんは優しく笑う。
「大丈夫っす!俺、体は丈夫なんですよ。」
なんて言ったそばからくしゃみをする灰羽くん。
「…私より灰羽くんが風邪ひいちゃうから…着替えなさい?」
「俺は大丈夫です!」
…これの繰り返し。
私が折れないとこの不毛な言い争いは終わらない。
「じゃあ、こういうのは?
灰羽くんはジャージを履く。そしてTシャツを着る。
私はTシャツと上着を借りる。
それでどう?」
灰羽くんは少し不満げな様子ではあったけれど私だってこれ以外は認めない。
不貞腐れた顔をする灰羽くんのワイシャツをくいと引っ張ると私は言った。
「さすがに全部は借りれないけど…助かった。ありがとうね?」
そう言うと灰羽くんはにかり、笑った。