第1章 はじまり
急いで走ったけれど結果は変わらずびしょ濡れ。
大事な書類の入ったカバンはなんとか無事だったけれど…
会社の玄関でどうしようか考えあぐねていたとき、灰羽くんが私をぐいと引っ張った。
「何してるんですか⁈行きますよ‼︎」
そう言い、連れてこられたのは医務室。
とっくに就業時間をこえた医務室には担当である清水さんはいなくて…
躊躇はしたけれど私達は勝手に中に入らせていただいた。
灰羽くんは棚からタオルを取り出し私に渡す。
「風邪ひいちゃいますから体拭いてください。」
そうは言ったものの、服はジャケットからワイシャツ、下着までぐしょぐしょ。
拭いても拭いても濡れた服に体温を奪われていくだけ。
部屋の暖房をつけても中々体は温まらない。
ぶるり、体を震わせると、それを見た灰羽くんが立ち上がる。
「…っ!ちょっと待っててください!」
灰羽くんはそう言い残すとばたばたと医務室から出て行った。