第1章 はじまり
2人の関係が劇的に変わり始めたのは6月後半。
その日は朝から灰羽くんと2人、取引先を回っていた。
その日まわる取引先は駐車場のないところばかり、そして駅から近いこともあったので、電車移動を選択した。
その選択が間違いだったと後程後悔するが、まあ、それは置いといて…
最後の取引先との話し合いが終わって外へ出れば立ち込める曇天。
「うわ…降りそう。」
生憎傘は朝、会社に置いてきた。
灰羽くんに聞くも、やはり彼も会社に置いてきたらしい。
雨が降らないことを祈りながら帰路につく私達。
会社の最寄駅まではなんとかなった。
しかし、会社まであと数百メートルの距離で急に降り出す雨。
その雨は、一気にバケツをひっくり返したような大雨に変わり、私達を濡らした。
「うわっ!走りますよ!椎名さんっ!」
私の腕を取り、少しでも早く会社に戻ろうとするリエーフくん。
リエーフくんの手があったかくて、私は思わずその手を握り返した。