第4章 2人きりでのイケナイ遊戯
話は前日に戻る。
金曜の就業後、私は灰羽くんに声をかけられた。
最近ソッチの話をしないので業務関係かと思い、その場で話を聞こうとすると、何となく歯切れが悪い。
なんだろうと首を傾げていると、灰羽くんが痺れを切らしたのか私の腕を引き会議室のある方へと歩き出した。
連れてこられたのはつい最近灰羽くんと2人で来た第3会議室。
押し込むように私を部屋に入れ、後から灰羽くんが部屋に入る。
かちゃり
退路を塞ぐように後ろ手で施錠をする灰羽くん。
ばっと顔を上げたかと思ったら、がばりと頭を下げた。
「すいませんでしたっ!」
「何…?どういうこと?」
なんのことだろう。
彼が謝ることをされただろうか。
そう悩んでいれば、ぽそり…と灰羽くんが呟く。
「こないだ…泣かせちゃったんで…」
ああ、こないだ第3会議室に連れ込んだときのことか。
「別に…私が無理言ったのが悪いんだし。」
そう伝えても灰羽くんは頭を上げない。
どうしたら頭を上げてくれるだろうか…
その時私の頭に1つの考えがぱっと浮かんだ。
「じゃあ、明日、明後日の時間を私にくれない。」
「前回も思ったんですが…
椎名さん…何考えてるんですか?」
私の提案にやっと頭を上げた灰羽くん。
私はスマホを操作するとホームページを開き、灰羽くんに見せた。
「灰羽くんと旅行にでも行こうかと思って旅館の予約を取ったんだけどキャンセルしそこねちゃって…
明日から1泊2日で、静岡の伊豆に温泉入りに行かない?」
そう聞けば、灰羽くんはいい辛そうにぽそり。
「旦那さん…は……」
「旦那は放っといていいの。私は灰羽くんと行きたいの。
灰羽くんと私達の関係を誰も知らない場所で手を繋いで歩きたいの。」
それが本音。
人目なんて気にしないで一緒に手を繋いで歩きたい。
ただそれだけなの。
少し考えた後、灰羽くんはこくり、と首を縦に振った。
ーーーーーー
待ち合わせに指定した鈴の前。
パーカーに細身のジーンズというラフな格好の灰羽くんが私を見て微笑む。
「おはよ。朝ごはん食べた?」
「まだです。」
「ここでお弁当買って新幹線で食べるか、新幹線降りてから食べるか…」
そう提案すれば灰羽くんはにかりと笑う。
「どっちもにしてもいいっすか?」
灰羽くんらしい言葉に、私はついくすりと笑った。