第1章 はじまり
灰羽くんは、素直だ。
いい意味でも、悪い意味でも。
わからないことがあれば素直に聞きにくるし、わかればちゃんと反応を示してくれる。
だから仕事を教える分には楽。
でも…
確かあの日は5月だったと思う。
5月にしてはものすごく暑かったのを覚えてる。
その日、取引先の資料を取りに灰羽くんと2人で資料室に行ったんだけど…
「うわ…あっつい…」
暑い暑いと騒ぐ上司がオフィスに冷房を入れていたおかげで、冷房のない資料室は上着を着ていると暑いほど蒸していた。
灰羽くんは入室して早々ネクタイを緩めワイシャツの袖をまくっている。
最初は「少し我慢すれば…」とジャケットを着たまま作業していたが、年度末に資料室の整理をしたらしく目的の資料が見つからない。
だめだ。暑すぎる。
暑さに根負けし、ジャケットを脱ぐ。
キャミソールも着てるし大丈夫でしょう。
そう考えた私が馬鹿だった。
「椎名せんぱ…黒……」
棚の隙間から私に声をかけてきた灰羽くんが唐突に色の名前を口に出す。
それは私の今日の下着の色を表していた。
「ワイシャツから透ける黒いブラってなんかエロいっすね?」
そう、私に近づきながら笑顔で話しかける灰羽くん。
適当な資料のファイルが灰羽くんの頭に飛んでいくのは
数秒後。