第3章 夏
side灰羽
椎名さんの名前を呼ぶ声。
まさかと思って隣を見たら椎名さんの表情がどんどん変化していくのがわかった。
驚き、戸惑い、そして困ったような笑顔。
俺のそばにいた彼女はその声の主に近づいて行った。
直感でわかった。
ああ。
旦那か。
「…彼は?」
そう椎名さんに問いかける優しげな男性。
椎名さんは困ったような笑顔で俺を紹介する。
「っ!紹介するね?彼は灰羽リエーフ君。今年入社の私の後輩。
灰羽くん?夫です。」
やっぱり。
本人から自己紹介され、流れで俺も自己紹介をする。
旦那に途中まで送ろうかと提案されたが、2人が会話しているのを見たくなくて断りを入れる。
そのまま2人に背中を向けて歩き出しても、椎名さんは追いかけてきてくれなかった。
どんなに椎名さんが好きでも、俺は旦那には勝てないんだとわざわざ目の前で見せつけられたような気がして
悔しくて悔しくて堪らなかった。
熱かった身体が急激に冷えていくようだった。