第15章 離婚、する
私の涙が止まる頃、気を利かせてもらってくれた温かいおしぼりを灰羽くんが私に差し出す。
それを折りたたみ目元に当てると腫れた瞼がじわりと温かくなった。
「そのままでいいんで、聞いてください。」
灰羽くんの、少し硬い声。
ぴりりとした空気に、動けない。
怖くて、視界を遮る布を動かせない。
「菅原さんから言われました。
"悔しいけど、俺より灰羽の方が、文乃のことを幸せにできる。
任せたぞ。"
って。
だから。」
からりん
部屋に響く、グラスに何かが当たる音。
おそるおそる布を外せば、目の前のシャンパングラスには琥珀色の液体。
そして、きらりと光る、指輪が1つ、あった。
「"キャロル"のカクテル言葉は、"この想いを君に捧げる。"
椎名さん…
いや、文乃さん。
貴女のこれからを俺にください。」
とくん、とくんと響く心音。
再び溢れ出した涙。
今度は温かい。
「っ!え⁈椎名さんっ⁈
もしかして嫌だった⁈」
私の涙を見た灰羽くんは慌てて向かい合って座っていた椅子から立ち上がり私の方へと近寄ってくる。
「椎名さん…?」
私の足元にしゃがみこみ顔を覗き込もうとする灰羽くん。
一瞬の隙を突いて、私はその体に抱きついた。
私の勢いで尻餅をついた灰羽くんが痛そうに呻くが、そのままぎゅうと抱きつく。
「椎名さ…」
「許さないからね。」
「貴方のこと、こんなに好きにさせた責任、ちゃんととってね。」
ぐずぐず、涙交じりの声。
それでも伝わったのか、不安そうだった顔は少しずつ晴れやかになり、灰羽くんは太陽のように笑った。