第15章 離婚、する
side灰羽
菅原さんと飲んでから数週間がたった3月下旬の金曜日。
俺は職場の最寄り駅にほど近い個室居酒屋に椎名さんを誘った。
一瞬戸惑った顔をした椎名さんだけど、少し考えるそぶりをしたあと、ちいさな声でいいよ、と呟いた。
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就業後、待ち合わせに指定した会社の最寄り駅のコーヒーショップに向かえば、椎名さんは改札を行き交う人の波を見ながらぼうっとコーヒーを飲んでいた。
その姿は本当に綺麗で、声をかけるのをためらうほどだった。
人が行き交う、そんな往来。
ふ、と目線が合う。
俺に気づいた椎名さんの瞳にす、と光が射した。
にこり、笑った文乃さんはその場でぐっとコーヒーを飲み干すと横に置いていた大きめの皮のトートバッグを持ち、その場を離れた。
「声かけてくれたら良かったのに。」
カフェから出てきた椎名さんがふわり、笑う。
「いえ、今来たばかりなんで…行きましょうか。」
なぜか顔を直視できず、ぶっきらぼうに答え居酒屋の方へ進む。
「え、ちょっと!灰羽くんっ!!」
人の行き交う改札前。
いつのまにか早足になっていた俺の足。
それに気づいたのは後ろで結んだコートのベルトをぐいと引かれたから。
ハッとして振り向けば、息を切らせた椎名さんが困った顔で俺を見る。
「ごめんなさい!速かったっすよね。」
「っ…大丈夫。」
明らかに息が切れているのに柔らかく笑う椎名さん。
申し訳なさから、少し立ち止まり待っていれば呼吸の整った椎名さんが顔を上げた。
「じゃあ…行きましょうか。」
「そうね。」
今度は間違えない。
俺は後ろに神経を集中させながら、人混みをかき分けるように…椎名さんの道を開けるように進んだ。