第15章 離婚、する
side灰羽
「なあ、灰羽。
お前さ、文乃の事、好きか?」
突然の事に驚き、食べていた焼き鳥のももを1つ丸呑みしてしまう。
ごきゅり、と変な音を立てながら喉を通りすぎる肉の塊。
慌てて残りのビールを流し込み一息ついた時に、今言われた言葉、そして前回言われた言葉を思い出した。
「…先輩として尊敬していますっ!」
「灰羽、別に誤魔化さなくていいよ。
俺さ…
いや、俺たち別れたんだ。」
菅原さんはふわり、笑いながらそう話をした。
「…え?」
「別れたんだ。文乃と、俺。
わかりやすく言えば、菅原文乃は椎名文乃になった。」
別…れた?
何故、どうして。
そんな言葉が頭をめぐる。
「俺さ、転勤になったんだ。
それを文乃に伝えたら、文乃から離婚を切り出してきた。
それと言われたよ。
灰羽、お前が好きだって。」
膝の上で握った拳が痛い。
椎名さんが言った言葉が、怖い。
「なあ、灰羽。
お前にお願いがあるんだ。」
怖くてたまらない。
何を言われるか。
自分がこれからどうしたらいいか。
恐怖の感情で、背中に冷たいものがつ、と伝う。
でも、なぜか目の前の菅原さんは笑っていて。
菅原さんの願いを聞かなければ、そう感じて。
俺は、菅原さんに言葉を促した。
「菅原さん、何ですか?」
「あのな、灰羽…………」
「………え?」
「頼まれて、くれないか?」