第15章 離婚、する
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side灰羽
ざわざわとざわめく駅前。
俺は数ヶ月前に訪れた居酒屋へと足を進めていた。
「文乃が俺以外を選んだら…
俺、そいつのこと、ころしちゃいそうだわ。」
前回飲んだ時の記憶を思い出し恐怖でふるり、震える体。
なぜまた会うことにになったのか…
それは一本の電話から始まった。
昼休憩に入りスマホを確認すれば見覚えのある番号からの着信が1つ。
その数字の羅列に恐怖を覚えつつ、俺は折り返し電話をかけた。
出ないでくれと祈る間にコール音が切れ、相手の声。
「はい、菅原です。灰羽くんだべ?」
「…そうです。電話、出れなくですいません。」
「仕事だったんべ?俺も折り返し狙ってかけてるから気にすんな。」
「………で、何の用ですか?」
年末年始休暇前の行為の後、俺は椎名さんから誘われなくなった。
誘われても食事やキス止まり。
そして増えた椎名さんの早退や休み。
ごたごたしてて、と本人は問うたけれどそれ以上は聞けなくて…
だからこそ怖いのだ。
椎名さんの事を菅原さんの口から聞くことが。
「ああ俺さ、仕事でこっち離れることになったから久しぶりに飲みたいなーって思って。」
きっと電話口で微笑んでいるだろう。
朗らかな、まるで友達に話しかけるような口ぶり。
でも
「 …いき、ます。」
きっと、断れない。
「本当か?今週で空いてる日ってどこ?前飲んだ居酒屋、予約しておくから。」
「今週だったらいつでも、予定、ないですし。」
「じゃあ早速今日とかどうだべ。」
「大丈夫ですよ?」
「じゃあ今日仕事終わったら前の飲み屋で。
俺の名前で予約入れておくから。」
「よろしくお願いします。」
飲みの予定が決まった後は二言三言話をして電話が切れた。
短くなった昼休憩。
背中を伝う冷や汗。
こんなにも就業時間が来てほしくないと思うのははじめてだった。