第15章 離婚、する
「乾杯!」
ダンボールだらけの家。
私より一足早く荷物を送った孝支。
そこで私たちは最後の晩餐をした。
晩餐なんて言ったけれど豪勢なものはない。
私が作った肉じゃがと鯖の南蛮漬けといちごのムース。
孝支が作ったチーズ入りの卵焼きとアボカドとサーモンの漬け丼、じゃがいもわかめのお味噌汁にチーズケーキ。
相手が好きな料理をお互いに作り、食卓に並べた。
2人で旅行に行った時に買った赤ワインを開け、2人で一緒に飲んだ。
料理はすぐなくなり、デザートを2人でちまちま食べる。
ほろ酔いの私は、いつもは言えなかった気持ちを素直に口に出した。
「孝支?ありがとうね?」
「ん?何が?」
「私なんかと結婚してくれて。」
ぽつり、と溢れる本音。
私、可愛くない女だから。
ずっと悩んできた。
甘えるのが苦手で
頑固で意地はって
伝えたいことと逆を言っちゃうあまのじゃく。
わかってても変えられない。
その本音を読み取ったのか、孝支は私の名前を呼んだ。
「俺、そんな文乃が好きなんだ。
甘えられないのわかってるからどうやって甘やかしてあげようっていつも思ってた。」
ちょっとまってなー
そう言って孝支はなぜかキッチンに消えていった。
少し待っていれば孝支が何かを持って戻って来る。
「はい。」
目の前に置かれたのは孝支特製のプリン。
いつもはない生クリームとカラメルのトッピングまで付いている。
「本当は甘いもの好きだべ。」
私の顔を見て言った孝支は確信を得たように瞳が光っていた。
そう。
私、本当はものすごい甘党。
でも食べすぎるとお肌が荒れちゃうから、控えめ…できるだけ食べないように我慢してきた。
「あ、りがと。」
「俺はさ。」
かたん
引かれた椅子が静かになる。
「ずっと素直になって欲しかった。
それが無理でもさ、せめて俺のそばでゆっくり休んで欲しかった。」
私、結局孝支の前でも素直に、正直になれなかったのか。
プリンを持っていたスプーンが、プリンのカップにあたりカチリ、となった。