第15章 離婚、する
「こう…し?」
この人はなぜ微笑んでいるのだろうか。
私はこの人を笑顔にさせるような言葉を一言も話していないのに。
「俺さ、初めて大学で会った時から文乃が好きだった。
今も好きだし、これから先もずっとそれは変わらない。
でもさ、俺が好きなのは笑ってる文乃だ。
俺のそばにいても笑ってないんだったら意味ねーべ?」
「こーし?」
きっと私は惚けた顔をしているのだろう。
事態が飲み込めない。
「笑って?」
ふわり、孝支が笑う。
「俺、文乃の笑顔が好きだ。
だからさ。」
かたり、と音を立て孝支が立ち上がる。
そして隣の部屋に行ったかと思ったら、鞄を持って戻ってきた。
「これ。」
鞄から出したのは離婚届。
私の欄以外は全て埋まっているそれを、孝支は私に差し出した。
「書いて終わりにするべ。」
目元をくしゃりと歪ませて笑う孝支。
その笑顔は2回目。
1回目はプロポーズを受けた時。
”俺、幸せだ”
そう、涙を堪えて笑った孝支を、愛しいと思った。
「ごめ…な、さ…」
どうして私はこんな優しいひとを裏切ってしまったのだろう。
泣いて許されるわけじゃないのはわかっている。
でも、涙が止まらない。
そんな仕様がない私を見て、孝支はそっと涙を拭ってくれた。