第14章 単身赴任、残る。
「なんで俺じゃないんだべ。
俺さ、こんなに文乃のこと好きなのにさ。」
耳に吹き込まれる声が怖くて体を硬ばらせる。
「俺がいろんなこと教えたのにな。
キスだって、セックスだって。」
着ていた部屋着のボタンを孝支の指がぷつり、ぷつりと外していく。
「初めて会った時から好きなのにな。なんで俺から逃げるんべ。」
ぐいっ、
襟を後ろに引かれ露出するうなじ。
孝支はそこに口付けると強く吸い付き、赤い跡を残した。
「なんで…?」
自分の中の何かが、ここにいては駄目だと警告した。
震える体で財布を取りに隣の部屋へ向かおうとするけれど、それは叶わない。
孝支の腕を抜け出して立ち上がったけれど、そのまま床に倒れてしまったから。
震えて力の入らない役立たずな足を引きずり鞄のある部屋へと体を向かわせたけれど、孝支はやすやすと私の体に乗り、動きを封じた。
ボタンの外れた部屋着を乱し、露出した肌。
邪魔だとでも言うように、孝支はブラジャーをぐいとあげた。
「どうしたらずっと俺のそばに居る?」
下着とロングスカートを一気に下げられ、冷たい床が直接肌に触れた。
「こ…し…」
「ん?」
「こーし」
「なに?文乃?」
「ごめ…なさ…い」
口から出てきたのは贖罪の言葉。
でも、何に対して謝っているのだろう。
単身赴任を望んだこと。
まだ仕事を続けたいと望んだこと。
浮気をしたこと。
孝支のことを愛せなかったこと。
嗚呼
孝支の心を
こんなにも壊してしまったことに
謝っているんだ。
「謝るんだったらさ
俺のそばにいてよ。
な?文乃。」
現実が見たくなくて瞑った瞳。
それでも見えたのは
絶望。