第13章 会社を辞め、ついて行く。
side灰羽
「灰羽くん。」
柔らかな声が前から聞こえ顔をあげれば、椎名さんがくすり、と笑う。
「風邪引かれたら困るから。」
そう言って椎名さんは、自分の首に巻いていたオフホワイトのマフラーを外し俺の首に巻いた。
「あげるわ。使うなり捨てるなり好きにして?」
ごおおっ
電車がホームに入ってきた。
彼女の後れ毛が、風になびく。
「これでお別れね。」
そう、呟いた椎名さん。
彼女は
ネクタイを引っ張り
俺の口を塞ぐ
唖然とした俺に
過去形の5文字を伝え
彼女はかぱりと開いた扉に飛び乗った
電車の中で振り返り俺を見た彼女の瞳には
大粒の雫が
流れ落ちていた
伸ばした手は届かず
無情にも
扉が閉まる
「文乃さんっ!愛してますっ!」
”あいしてた”
叫んでも
もう俺の声は
届かない
残ったのは
唇を彩るあか
と
柔らかく首を締め付けるしろ
だけだった