第12章 静かな波が、跳ねる。
シャワーを浴び、髪を乾かした所で孝支からの呼び声。
乾かした髪を束ねながらキッチンに戻ればふわふわのオムライスとスープ、ポテトサラダがテーブルに乗っていた。
「時間ないから簡単でごめんなー?」
孝支はいつもそうだ。
いろんなことをそつなくこなす。
勉強だって、仕事だって、家事だって
そういうところが、好きだけど嫌い。
「ううん、ありがとう。美味しそう。」
洗い物を終えた孝支がキッチンからケチャップ片手にやって来て椅子に座る。
それを見て、私も向かいの椅子に座る。
「あったかいうちに食うべ?」
「だね?いただきます。」
「いただきます。」
挨拶をした後はかちゃかちゃと食器が鳴る音が静かに響く。
ふわふわとろとろのオムライスは美味しいはずなのにうまく味を感じることができない。
スープも野菜から出た美味しさとコンソメが合わさって美味しいはずなのに何も感じない。
舌触り滑らかな、味のしないポテトサラダを咀嚼し、飲み込む。
一連の動作を終え、綺麗になった皿。
それよりも早くお皿を空にした孝支が先に席を立ちキッチンに向かう。
それに習い、私も食器を持ちキッチンへ向かおうとすると、それを察知した孝支から声が投げかけられた。
「文乃!まだ座ってて?」
上げかけた腰を下ろし、待っていればホカホカと湯気が立つマグカップと何かがお盆に乗って運ばれてくる。
「いやさ、昨日文乃飲み会だったから暇でさ…」
作っちゃった、と出されたのはひんやり冷えたチーズケーキとホットコーヒー。
どうぞ、と差し出され、目の前で見られると食べないわけにもいかず、小さく切り分け口に放り込んでいく。
味わった真似をして口に放り、コーヒーで流し込む。
「美味しかった、ご馳走様。」
苦しかった。
自分の家なのに居心地が悪い。
早くこの場から離れたい
そう思った。
思ったのだけど孝支が意外な言葉を吐いたことにより、私はその場からまた動けなくなった。