第12章 静かな波が、跳ねる。
「灰羽のにおいがする。
賢い文乃ならわかるよね。」
嗚呼、やっぱり、駄目か。
いつもと同じ優しい声
優しい口元。
だけど、目が笑ってない。
ぎじり、鳴るスプリングがやけに響く。
「なあ、文乃。なんでだべ。」
ぷつり、ぷつりとワイシャツのボタンが外される。
「俺じゃ、駄目?」
外されたボタンの隙間から下着が脱がされる。
肌に冷たい雫が落ちる。
「俺さ、ずっと文乃が好きなんだ。」
「初めて会った時から好きなんだ。」
「なんで俺から離れて行くんだよ。」
嗚咽交じりになる声が、耳をすり抜けて行く。
もう、どうしたらいいのか
わからない。