第12章 静かな波が、跳ねる。
AM6時。
かちゃりと鍵を回す。
小さな声でただいまを呟くけれど、部屋は無音。
こつりとヒールを置き、廊下を進む。
閉じられていたリビングへ続く扉を開いた途端
わたしは
息が止まった。
「おかえり、文乃。」
2人用のダイニングテーブル。
それと同じデザインの椅子に
孝支が座っていたから。
「ただいま、孝支。
終電に間に合わなかったから潔子のところに泊まるって話してたじゃない。」
ぎぎ、
孝支の目の前の椅子を引き、座る。
「うん。でも気になって。」
「何が?」
「ねえ、文乃?
どうしてお前から男物の香水の香りがするの?」
心臓が掴まれたように苦しい。
きっと、駅で抱きしめられたときについてしまった残り香。
それを指摘しているのだろう。
「…たぶん電車に乗ってるときに香水のきつい人が乗ってきたから…その人のじゃないかな。」
「文乃?」
「着替えてきてもいい?ずっとスーツじゃ息苦しいし。」
「…文乃」
「急いで朝ごはん作るね?何食べたい?」
一度座った椅子から腰を浮かせ、寝室に向かう。
タンスを開けて部屋着を取り出したとき、いきなり体が動き、私はベッドの上にいた。