第10章 変化。
side灰羽。
用事があるからと一次会で帰宅したはずの椎名さん。
三次会後、帰ろうと駅に向かえば先ほど帰ったはずの椎名さんが改札に向かう姿が見えた。
「椎名さ…」
でも、隣にはなぜか赤葦さんがいた。
ごそごそと鞄を探る椎名さんの隣。
先ほどと髪型が違う椎名さんの髪をそっと掴むとそこに赤葦さんは優しく口付けた。
なぜ
椎名さんと赤葦さんが…?
考えるより先に俺は椎名さんの名前を呼んでいた。
呼び止めて話がしたい。
そう思ったはずなのに、途切れ途切れにしか出てこない言葉。
そっと手を伸ばしたけれど、椎名さんに触れる前に奪われる椎名さん。
挑発の言葉を吐いて走り出した赤葦さんは椎名さんの腕を引いている。
必死で追いかけたけれど信号で撒かれて見失う。
探して探してやっと見つけた時、椎名さんは赤葦さんの腕の中にいた。
「行かせない、行かせたくないです。」
赤葦さんの少し震える声。
その手を離そうとする椎名さん。
でも赤葦さんも椎名さんを離そうとしない。
「でも…行かなきゃ。灰羽くんのところに…」
「きっと椎名さんは灰羽を見つけられない。」
椎名さんは俺を見つけられない。
そういうのならば…
「じゃあ、俺が見つけます。
椎名さんのこと。」
今日のように、何度でも見つけ出してみせる。
そして何度でも抱きしめるんだ。
俺がこの手で。