第10章 変化。
「待って!」
そう言っても、私の腕を引き走るスピードは止まらない。
「ねえ、待って!」
何度制止の声をあげても止まらないことに焦れて、私は掴まれた手を払った。
「待ってよ!
赤葦くんっ!」
手を引いていたのは赤葦くん。
改札の前、近づいてくる灰羽くん。
動かない足。
それを動かすように、赤葦くんは私の手を取り自分の方に引く。
「取り返したかったら追いかけてきなよ。」
そう、笑いながら言った赤葦くんの声が聞こえた瞬間、私の体はさらにぐいと引かれ駅の外へと走り出していた。
先ほどまでいた明るいネオン街から一本外れた裏路地。
遠くから聞こえるざわついた人の声。
帰ろうと駅の方に踵を返した私の体を赤葦くんが抱きしめる。
「帰らないでください。」
そう、赤葦くんに言われても、思い出すのは灰羽くんの寂しそうな顔。
腕を引かれ、走り出した時にふと見えた私に伸ばした手。
「…離して。」
「今離したら、貴女は灰羽を探しに行ってしまう。そうでしょう?」
赤葦くんの言葉に肯定の意味を込め頷いた私の体を、赤葦くんは離さない。
「行かせない、行かせたくないです。」
「でも…行かなきゃ。灰羽くんのところに…」
「きっと椎名さんは灰羽を見つけられない。」
「じゃあ、俺が見つけます。
椎名さんのこと。」
ふ、と顔を上げれば、そこに灰羽くんがいた。