第10章 変化。
来てくれた。
本来なら疑ってもいいような場面。
それなのに灰羽くんは私を追って来てくれた。
そのことが嬉しくて、ぽろり、涙がこぼれた。
「赤葦くん、離して。」
震える私の声。
その声を聞いた赤葦くんは腕の力を緩めた。
私が包まれていたいのはこの腕じゃない。
目の前で手を伸ばす彼の腕だ。
灰羽くんの伸ばす腕に飛び込めば、当たり前のように力強く抱きしめてくれる。
いつもの洗濯洗剤の香り、そしてわずかに香る汗。
一生懸命走ってくれたんだな。
そう思うのは自意識過剰かしら。
なんて思っていれば、私の背中からくすくすと笑う声。
振り返れば、スマホを掲げた赤葦くんが私達に例の画像を見せつけていた。
「いいんですか?既婚者である椎名さんのこんな写真が世間に広まったら、貴女は会社に居られない。
灰羽も同じだ。
新人が上司を旦那から寝とったなんて聞いたら誰も君のこと仕事で使わなくなる。
それだけのリスクがあることだってわかってますか?」
そんなことわかっている。
そう口を開こうとした時、私の声を遮るように灰羽くんが喋った。
「そんなことわかってます。
それでも気持ちが止まらない。
椎名さんじゃなきゃダメなんです。」
ストレートな言葉。
嬉しくて厚い胸板に頭を持たれさせれば、そっと頭を撫でてくれる。
「私、もう灰羽くんじゃなきゃココロもカラダも満足できないの。」
だから、いいの。
「負けたよ。俺の負け。」
そう答えた赤葦くんは仕事の時のようにくすりと口端で笑う。
「まあ、最初から別にばら撒くつもりはないし…
これは完全に俺のオカズ用画像だし。」
「いや、赤葦くん消して…」
さすがに私が快感に喘いでる画像、動画は消して欲しいんだけど…
そう呟けば、赤葦くんは少し考えにやり、と笑った。