第8章 荒北の荒北は荒北さんの荒北
「メイ!!」
「はーい」
はいではない!!と口煩い東堂を放って、
「早くどうにかしなよ」
と、宮田と並んで外で作業する光景は今ではもうお馴染みで
「・・・さて私の好きな人は誰でしょう?」
と、いきなりきけば
「荒北」
そう速答される。
「いつから好きなんだろう・・・」
俺に聞くなよと宮田が笑う。
「気づいたなら、今日決戦だな。」
「え?今日?!?」
「お前悩んでる時間長すぎ。ちゃっといけ!ちゃっと!」
「立派な乙女心が!」
「メイにそんなもん要らないだろ」
(いるだろう!)
とにかく今日なと言われたその日は案の定何もできず、東堂とも気まずくなりかけてきたある日の事。
「メイ!」
「今日!」
廊下ですれ違った東堂にそう返せば
「必ずだぞ!」
と返ってくる。ここ何日もずっと考えて覚悟ができた。荒北を好きだが今は伝えない。インハイが終わるまではとりあえずの仲直りをしようと意気込んできたのだ。
昼休みが終わり、授業も終わり、部活に移動する時間。
(言わなくちゃ、言わなくちゃ)
後ろで席を立つ音がして荒北が横を通っていく。
(言わなくちゃ!)
何度タイミングを逃してきた事か。動けばすぐだし、動かなければずっとこのままだ。
「荒北君!」
廊下で名を呼べば、なんだと言わんばかしの荒北。
「ちょ、ちょっと待って」
急いで荷物を持って、廊下に居なかったらという不安にかられながら教室を出ると、
「おせー・・・」
と自分を待っており、2人歩き出すと暫くの沈黙。
「もうね」
その沈黙を破ったのは名
「もう良いんだ」
「何が?」
そういえば荒北は2人で居る時は声を張り上げることがないなとふと思った。荒北を怖がる人が多いが、始めから自分に対しては怖くなかったなと思い、久々に並んで歩くこの雰囲気が心地よく感じ
「荒北君と離れるの。辛いだけだから」
と最後の一言は内に秘めたつもりが口に出ており
「あっそ」
とそっけない荒北に少し残念さが残り、ふと荒北を見ると顔が鉢合わせになった。
「こっち見んな」
一瞬、荒北の手のひらで視界を塞がれる。離されるといつもの荒北。
「もう良いのかよ」
「良いんだよー」
荒北の隣でうきうきしている名
「あっそ」
「そーよ。」
だって、あの荒北が嬉しそうにしてる様に見えた。初めてみた表情が特別に思える。