第22章 第21章 恋知りの謌【謙信】湯治編 〜車輪〜 ③
…パラリ…と、
秀吉の髪の毛が、わずかだが飛び散った。
頬には、
真横に刀傷が出来ていて
うっすらと血が浮き上がった。
「秀吉様!!!」
三成が叫んだと同時に、
「何やってやがる!!!」
「奇襲とは越後の龍らしくない。」
刀を手にした政宗と光秀が駆け付けた。
夜明けに突然押入られたと言うのに、呼びつけられた当の秀吉は冷静な様子で織田の武将たちを手で制し、
冷ややかな瞳の奥に怒りの炎を露わにしている謙信と、無言で向き合っていた。
「…美蘭に何かあったの?」
そこに家康が現れ、
冷静に問いかけた。
すると
チャキ…と音を立てて、
鶴姫の剣先が秀吉の喉元に突きつけられた。
「この男が、意識の不明瞭な美蘭に口付けたのだ。」
「「「「 ………っ??! 」」」」
予想外の話に、
織田の武将たちは、目を白黒させた。
「秀吉…本当なのか?」
口火を切った政宗の問いに
「…ああ。」
秀吉は、重苦しく答えた。
「はあ?!」
「…秀吉様…?!」
「クッ…面白そうな話だな。」
喧騒を他所に、
謙信は秀吉に問いただした。
「美蘭に…恋情を抱いておるのか?」
冷たい炎が揺れる色違いの瞳は、
秀吉を睨みつけた。
「「「「 ………ッ! 」」」」
その場にいる誰もが、
息を飲んで秀吉を見つめると
秀吉は、
「……ああ。」
揺らぎない瞳で謙信を見つめた。
「今更気づいたんだがな。」
「…ッ!…ぬけぬけと…っ!」
歯ぎしりした謙信が、チャキ…と鶴姫を握りなおしたその時
「だが…そこの美蘭に惚れた男が、考えなしに一緒に崖を転がり落ちてやったから、美蘭が助かったのであろう?」
「…!……信長…。」
「信長様!」
寝着の合わせに手を差し入れた信長が、謙信と秀吉にゆるりと歩み寄って来た。
「お下がりください!」
いまだ鶴姫が突きつけられている秀吉が、己よりも君主の心配をするが、
「貴様に指図は受けん。」
一蹴される。
「なあ?龍よ?」
「……。」
そして、魔王と龍は睨み合い
息をするのも憚られるような緊張感が
その場にピンと張り詰めた。