第22章 第21章 恋知りの謌【謙信】湯治編 〜車輪〜 ③
膿を絞り出し終えたと同時に、あまりの痛みに耐えかねた美蘭は気を失った。
だが、
ひとまず、手当ては無事終了したのであった。
家康が謙信の腕の中で気を失っている美蘭の首の傷口に、包帯を巻いている。
「やっと落ち着いたみたいだ。」
「…佐助殿?…ああ、そうだな。」
美蘭のことを言っているのかと思ったが、
「謙信様は、美蘭さんのことになると周りが見えなくなるんだ。家康さんから連絡を受けてからずっと心ここにあらずだったけど、安心したんだろうな。」
佐助は謙信のことを話していたのであった。
「だが…血が……。」
しかし血が滴る腕は、安心などという言葉と対局に見えた。
「大丈夫。きっと美蘭さん1人に辛い思いをさせずに済んで、喜んでる筈だから。」
「…っ!」
他人に容易く心を開かない謙信が、腹心として全幅の信頼を寄せている佐助から、
謙信が美蘭を大切にしていることを話して聞かされるのは、椿にとって苦痛であった。
「しかし…っ…怪我の様子を見てくる…!」
それ以上聞きたくないと思った椿は、謙信の怪我の様子を見るのを口実に、佐助の隣から駆け出した。
「謙信…これを使え。」
謙信のすぐ脇にしゃがみ込み手拭いを差しだしたが
謙信は、
気を失っている美蘭の様子を見てばかりで反応しない。
「……っ。」
椿が差し出した手をどうしたら良いか、迷い始めた時
謙信の腕の血が滴り落ちそうになった。
気づいた椿が
「…!………許婚を血で汚してしまうぞ。」
消え入りそうな声でそう呟くと
「…!」
謙信が、初めて反応した。
「…椿。悪いが、血を拭ってくれるか。」
「………ああ。」
謙信の腕の血を手拭いで拭いながら
(自分の怪我は構わぬのに、自分の血で許婚が汚れるのは嫌だというのか…。)
謙信が美蘭をどれだけ大切にしているのか思い知らされるばかりで、
椿は胸が張り裂けそうだった。
(いったいこの女の何が謙信をそうさせるのだ…。)
謙信の腕の中で気を失っている美蘭を見つめながら、そう思った
その時