第22章 第21章 恋知りの謌【謙信】湯治編 〜車輪〜 ③
腕に抱いている恋人を引き渡そうとする謙信に、家康は言った。
「別に…そのままあんたが抱いてたって診れるから。」
「…!」
ここまで来る道すがら聞かされた僅かな会話だけでも、謙信が、美蘭を自分の命よりも大切に想っていることを思い知らされた家康は、
「とりあえず帯だけ緩めてやって。それだけでも大分楽になる筈。」
無意識に謙信の気持ちにも気を配っていた。
謙信は無言で頷き、
自分の腕の中で恋人の身体を目の前にいる家康に向けると、すぐに帯を緩め始める。
秀吉は、
他人に厳しい家康の敵将への配慮から、家康が謙信に何かしら一目置いたことを感じ取りながら
「…気がつかず…済まなかった。」
力及ばぬ自分を、悔しく思った。
謙信が帯を緩め、襟元を開くと
「 「 「 ……。 」 」 」
ふくよかな胸元が少し露わになり、男たちは息を飲んだ。
だが、いち早く気を取り直した家康が眉をしかめる。
「…毒素がかなり広がってる。…噛み口には膿みも溜まりはじめてるし…。」
「おい!」
そこへ、馬をつなぎ駆け寄ってきた椿。
「この薬を…飲ませてやるといい。吹田の人間が山歩きに必ず携帯している白蛇の毒に効く薬だ。」
紙に包まれた薬を差し出され
それを受け取った謙信は
「…恩にきる。」
色違いの瞳で、椿をまっすぐ見つめ礼を述べた。
「…っ別に。いつも持っているだけだ。」
椿は、謙信の美蘭を思う気持ちに溢れたまっすぐな視線が眩しすぎて、思わず目を逸らした。
そして、ぐったりとした美蘭に視線をうつし、
様子をよく観察した椿は、ある疑問を口にした。
「膿みを出して薬を飲ませれば、良くなる筈だ。…しかし…身体に広がっている痣のようなもの…これは蛇とは関係のない怪我か?」
「…本当ですね。こちらは崖から落ちたときについたのですか?」
覗きこんだ三成が、問いかけるように秀吉に視線を向けると
「…っ。…それは…」
歯切れの悪い君主。
それを聞いていた家康が、
大きなため息をついて言った。
「それは恋人に吸い付かれた跡だから関係ない。」
「「 ……っ!!! 」」
途端に赤面した椿と三成は気にせず、
家康は言った。
「とりあえず、切開して膿を出すよ。」