第22章 第21章 恋知りの謌【謙信】湯治編 〜車輪〜 ③
無言で心の中で独り叫び
ほんの少しだけ落ち着きを取り戻した秀吉。
腕をゆるめ、
改めて抱き抱えている美蘭の様子を見れば
眠ってはいないが、ぐったりとしていた。
状況は、悪い。
首の腫れは更に進行し、とても動かせる状況ではなくなった。
(こんな状況で…俺はいったい何を考えてるんだ…。)
鍛えた身体や剣術では太刀打ち出来ない状況と、こんな状況なのに美蘭への感情を制御出来ずにいる自分に苛ついた秀吉は、
深く長いため息をついた。
その時
「秀吉様!」
「美蘭!」
「豊臣殿!」
自分と美蘭の名を呼ぶ複数の声が聞こえた。
「…っ!?三成か??!」
その秀吉の声に導かれたように、
林の中から、三成たちが現れた。
「秀吉様!」
「三成!…家康も…。……っ!」
三成、家康に続き、謙信の姿を確認した秀吉の心臓はドクリと波打った。
「ちょっと…美蘭?!」
「美蘭様?!」
家康と三成は、すぐに目の前の状況の異常さに気づき青ざめ、
緊張感が捜索に来た一同に広がった。
誰もが驚愕しているほんの一瞬の間に馬を降り、秀吉に抱き抱えられている美蘭のもとへ駆け寄った謙信は
秀吉の腕から自分の恋人を奪うように引き受け抱きしめると、
肩で息をする意識薄弱なそのつむじに、これ以上ないほど愛しげに長い口付けを落とした。
顔を上げた謙信は、
「……何があったのだ。」
底冷えするような鋭利な視線を、秀吉に向けた。
「崖に落ちそうになった美蘭を助けきれず…一緒に転がり落ちて…。美蘭が足を怪我したから、休み休み西の山道を目指していたんだが…途中で白蛇に噛まれたんだ。」
自分が付いていながらのこの状況に、自責の念に襲われた秀吉は、顔を歪めながら言った。
「白蛇だと?!」
椿をはじめ、吹田の家臣たちも騒然とした。
「それって…毒蛇だって言ってたよね?!ちょっと診せて!」
馬から飛び降り走りよった家康に
「……。」
謙信は警戒した視線を向けた。
「あんたがただ抱いてるよりも、救護の知識がある俺に診せた方が、この子のためだと思うけど?」
だが冷静な家康の言葉に
「………頼む…。」
謙信は、抱きしめている手を緩めた。