第21章 恋知りの謌【謙信】湯治編 〜車輪〜 ②
か細い指が、秀吉の唇に触れた。
「……っ。」
たったそれだけで、
秀吉の背中に甘い電流が走った。
その瞬間
秀吉の中で、まるで雪解けのように、これまで律して保ってきた牙城が、ガラガラと崩れ落ちて行った。
混濁した意識の中で、秀吉を謙信だと思い込み、愛しい男にのみ見せる、甘え、乞う、美蘭の姿に、秀吉の理性は崩壊したのだ。
(おまえが望むなら……)
秀吉は、自分の唇に甘えて這わされた指を優しく自分の手で包み込むと、
胸に抱いている美蘭に、触れるだけの口付けをした。
震える唇に、秀吉は苦笑した。
こうした経験は星の数ほどしてきたというのに、その全てが無意味だったかのように、緊張している自分が、自分でも信じられなかった。
(いつの間に、こんなに大切な存在になっていたんだ…。)
やりきれない気持ちに、ズキリと胸を締め付けられ
かすかに触れ合った唇を離そうとすると
(……っ…。)
愛しい女の柔らかい唇が、
まだ止めないで…と、更なる口付けを欲しがり追いかけてきた。
(…そんなことされちまったら…)
止められる訳がなかった。
謙信だと思われていても構わない。
秀吉は、美蘭に乞われるがまま、ついばむような口付けを繰り返した。
(…クソッ…!!!)
しかし何度目かの口付けで、突如虚無感に襲われ
チュ…と生々しい音を立てて、唇を離した。
そして
両腕で、力強く美蘭を抱き締め、髪の毛に口付けた。
「なんで上杉なんだ……っ…。」
謙信に抱き締められ、口付けられたと思い込み、錯乱状態を抜けられた美蘭を腕に抱きながら、
叫び出しそうな感情を必死に抑え込みながら、
只々、愛しい女を腕に抱き締め、助けが来るのを待った。
続